ヘップバーンに捧ぐ
紗英さんの訃報を
従兄弟から聞いたそうだ。

咲良ちゃんからは一切連絡がなかった。

心配で、連絡を取るも
こっちは大丈夫
の一点張りで、様子は伺えない。
でも、親子である。
声を聞いただけで、大丈夫じゃないことはわかっていた。

その頃、冬季オリンピックの競技場建設チームに
携わっていた二人は、すぐに日本に帰りたかったが、急に設計図を書換えると言い出したメンバーがいたらしく、
彼の説得と帰国の段取りに時間を要してしまった。


友引を挟んでいたこともあり
何とか、通夜にはギリギリ間に合った。

そこには、泣きたいのを必死で我慢する
咲良ちゃんの姿だった。

遺影だけをただ見つめて。

通夜、告別式を終え、
咲良ちゃんの側にいたいのは山々だが
向こうに戻らなければ、ならない。

二人は、日本で一人ぼっちになってしまう愛しい娘が心配でたまらず、
海外に一緒に来るように説得したが、
断固として頷くことはなかったそうだ。

『咲良、向こうで一緒に暮らそう。
咲良一人、日本に残しておくことはできない。

言葉、文化の違いやあるけれど、
ゆっくり馴染んでいけばいいから』

『今更、親ぶられても困ります。

私にとって、
家族は紗英ちゃんだけです。
貴方方は、どうぞおかえりください。
私は、一人で大丈夫ですから』

言われて当然のことだと思ったが
実の娘に、親ぶられても困ると言われ
ショックだった。

それでも時間の限り説得したが
一緒に、来てくれることはなかったそうだ。

高校卒業、大学入学、就職

全て誰にも頼らず一人で決めてやってしまった。

『普通なら、自立した良い子となるところだが、咲良の場合は、違うんです。
私達、両親が不甲斐ないせいなんです。

あの子に、我慢ばかりさせ
会いに帰ることさえ、ろくに出来ず
こんな親に頼れって言われても
何が頼れるんだって話ですよね』

涙ぐみながら、お二人は話す。

『すみませんね。

たくさんの日本人には出逢ってるけど
ここまでこんな話したのは、麻倉さんが
初めてです。

何ででしょうか
不思議なもんで、貴方に聞いて欲しかった』

確かな、なかなかヘビーな内容であるが
自分でも何故か、聞かずにいられなかった。

『他所様の息子さんには辛気臭い話でしたね。
どうか、忘れてください

この写真展は、毎年夏になると開きます。

場所は、決まってませんが、
プレスは一切入れず、
紗英ちゃんが撮った写真たちを純粋に
見て欲しくて

どの写真も、
ファインダーを向けられて子供たち
笑ってるでしょ?

この純粋な笑顔が消えてしますことは
何よりかなしいことです。
紗英ちゃん亡き今も、そこは伝えていかねばと写真展を開いています。

そうする事で、紗英ちゃんと咲良に
罪滅ぼししているのかしれませんが』


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