ヘップバーンに捧ぐ
そう決意した途端、
急激にお腹が空いた。

けれど、通りまで出なければ帰れない。
そう思い、またタクシーを呼ぶため
電話をかけた途端、いきなり切られ、
後ろから、抱きしめられた。



振り返ると、汗だくの翔駒さんがいた。

『どこにかけんの?』

「タクシー呼ぼうと思って………」

『お前バカかっ!
こんな夜に、一人で飛び出して
しかも、こんな暗いところ一人でいるし

何考えてんだよっ!
何かあったらどうすんだよっ!

頼むから、俺の寿命縮めんな………』

「ごめんなさい」

『良かった~
まじで、良かった~』

「ごぉ、ごめんなさい………」

翔駒さんの体温に包まれているせいか
涙が止まらない。

止まって欲しいのに、止まらない。

『なぁ、顔こっち向けて』

嫌、絶対嫌だ。
化粧なんてドロドロのグチャグチャ
見れたもんじゃない。
全力で首を横に振った。

『早く、こっち向かないと
キスすんぞ

はい、5.4.3…』

「はい、向きまし………」

目の前には、翔駒さんの顔があった。

キスしてしまった。

「ご、ごめんなさい!」
むにゅ、むにゅ、ほっぺすんな

『なんで謝んの?キスしてんのにー
本当にほっぺ柔らかいね
英介さんの言う通りだわ』

「ちょ、やみぇてくださひゃい!」

アハアハ笑いながら
もう一度、キスされた。

二度目は、お互いを
確かめるように
キスをした。

この場所は、いつも優しい空気が
漂う。


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