ヘップバーンに捧ぐ
ASAKURAは大阪に支社があり、
そこで、定期的に
西日本の支社長会議、営業会議を行なっていた。

咲良ちゃんとのランチタイムはお預けになるが、
彼女の行ってらっしゃいがあるから、何とか頑張れる。

会議後、会長から連絡があり、
地方創生広報担当との会食に誘われた。

本当は、全力で断りたいが
関西で期間限定地方アンテナショップが開かれることになり
そこで、ASAKURAとコラボした万年筆の発売が決まっており
プロモーション活動をしている時期であったため、
しぶしぶ会食に応じた。


案の定、会食なんてありもしなかった。

広報担当の代わり、そこにいたのは
会長と、コバンザメと、笑顔の気味悪いもう一人。

『待っとったで、翔駒君。
こちらが、東洞ホールディングスの社長令嬢
東洞 理沙子さんや。
なっ!別嬪さんやろ?』

『嫌ですわ、会長。お世辞が過ぎますわよ。
こういった場では、初めましてでしたよね?
東洞 理沙子と申します。
お噂はかねがね
実際にお逢いできてうれしいですわ』

確かに、
そこら辺の人よりかは、ままいいんじゃないかぐらいの容姿で
特に大したことはない。

咲良ちゃんとの足元にも及ばない。
こういう女が一番厄介なタイプなことはよくわかる。

「初めまして、㈱ASAKURA 専務取締役 麻倉 翔駒です」

『専務、理沙子の可愛さに照れるものわかるが
 身内になるのに
 そんな、けったいな挨拶あんまりじゃないですかね?』

『叔父様、そんなこと言わないの!
翔駒さん困っちゃうわ。

これから、長いお付き合いになるのですから』
『そうだな、そうだな
これで、ASAKURAも安泰だ』

咲良ちゃんにも、読んでもらったことないのに
勝手に下の名前で呼びやがって。虫唾が走る。

心の内の罵詈雑言を隠すすべは日本一俺である。
すぐに営業スマイルに変えられる。

「身内とは、何のことでしょうか?
私には、身に覚えのない話であります
お嬢さんに私の下の名前をお呼び頂く関係でもありませんし
未来永劫」

3人は、固まって、開いた口が塞がらないといった様子である。

『翔駒君、以前話したやろ
忘れたとは言わせへんで

君は、理沙子さんと結婚するんや
他とは許されへんで』

「会長はいつから私の伴侶の決定権がおありなんでしょうか?
私の両親すら、
伴侶は自分で決めるように言われておりますが?』

『専務、えらそうなこと言える立場かね!
場をわきまえろ!だから壮次郎なんかと結婚するから
こんなぼんくら息子が生まれるんだ!』

こいつの頭、本当に腐ってるわ。
相手にするだけ、時間の無駄。
自分は、田野島会長の後ろ盾があるから
何言っても許されると思っているようだが、
大間違いだ。

「今回呼ばれた内容とは大きく違っているようなので失礼致します」

『待たんか。まさか本気で、あのお嬢さんと結婚なんぞ
考えておらんやろな?』

「考えておりますよ。
仰りたいことはこれで終わりでしょうか?

ぼんくら息子の私ですが、慕ってくれる社員がおります。
大阪での滞在時間をここで終わらせてしまうのは非常にもったいないので、
今度こそ失礼致します」

タイミングよく、橘が
扉を開けてくれた。

一刻も早くこの場から去りたかった。


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