ヘップバーンに捧ぐ
酔いが回った楓は、彼氏のトオル君に迎えに来てもらって、食事会お開きとなった。

いつもの如く、私たちの知らない間に
お会計が済まされていた。

お店を出ようとした時、大将に声をかけられた。
『おねぇちゃん、前に話したけどさ
地上げの時本当に助けてくれたのは
社長さんだけなんだ
こんななりだからよ、誤解するかもしれんけど
この人はな、裏切ったりしない
だから、麻倉さん支えてやってほしい』

頭を深々と下げた大将。
この人の言葉には、とても翔駒さんを想う
優しい気持ちがあって、嬉しかった。

「大将頭上げてください。
私は、翔駒さんを何があっても支えます。
私の人生で、この人しかいないと思ってます。」

『ならよかった。夫婦になったらまた食べにてな、待ってるぞ』

大将にご挨拶して、駅ビルを後にした。
夜も22時で良い子なら寝てないといけない時間。でも、私たちは大人だ。

「翔駒さん、まだ時間あります?」

『あるよ。どうした?』

「今度は、私が翔駒さんエスコートします」

そう言って、翔駒さんを連れてったと言っても
運転は翔駒さんがしてくれたけどね。

22時から閉店までの1時間半限定
スペシャルショーがある喫茶店。

店主ブレンドのコーヒーを飲みながら
ジャズバンドの演奏が聴ける。

前に一度だけ、たまたま通りかかって入ってみた喫茶店であった。

おしゃれで、大人で、すぐに気に入ったけど
なかなか夜も遅くて行けなかった。

本当は、あまり教えたく無いから人には言って来なかったけど、翔駒さんには知って欲しかった。

「どうです?この喫茶店」

『まず、コーヒーが美味い
これ?ハワイコナ?』

「その日によって変わるみたいですけど、
今日はハワイコナですね!
美味し~い!」

『良いよな、この雰囲気
すげぇ、落ち着く
ありがとうな連れ来てくれて』

翔駒さんの肩の位置が少し低くなったような気がした。いつも、働き詰めでしかも最近の出来事があったから、休めるものも休めなかったと思う。
だから、せめて今だけは心休めて欲しかった

今日の曲目は、『この素晴らしき世界』だった。
彼と出会い、今ここにいると思うと感慨深い。

ねぇ、紗英ちゃん
この世界って素晴らしいね
生まれたことすら後悔した時もあったけど、
今は、生まれて来てよかった

< 68 / 76 >

この作品をシェア

pagetop