ヘップバーンに捧ぐ
広大な敷地に聳え立つ、見事な日本家屋それが翔駒さんの
実家だった。
門構えからして、この家の敷居を跨いでいい人間かそうでないか
確かめられているような造りだった。
明らか気圧されている私を見て、
『普通の家だろ?たいしたことないってさぁ、おいで』
と言った。
あなたの普通は、普通と違います!
むしろ私の感覚のほうが、よっぽどマジョリティだわ!
心の中で、唱えてみるもどこ吹く風の翔駒さん。
えぇい、女は度胸。
覚悟を決めて、門をくぐった。
石畳を歩き、手入れをされた庭の草木達を眺めて
やっとこさ玄関までたどり着いた。
『坊ちゃん!おかえりなさいまし
咲良さん、いらっしゃいませ。トメもお会いとうございました
外は暑うございます。ささっ、お履き物お脱ぎください
奥様~!奥様~!お坊ちゃんと咲良さんお見えです~』
絵にかいたような、お手伝いさんに出迎えられ
応接間に案内された。
そこにいらしたのは、お母様………
「松室さんっ!どうしてここに?」
『あらあら、あらっしゃい咲良ちゃん!
翔駒の母の松室 真子です。松室は旧姓なの。
びっくりした?』
「ええっと、はい。ものすごく。」
『オホホっ!ごめんなさいね。騙すようなことしてしまって。
いやぁね、
今まで女の影一つない三十路男が夢中になってる女の子が
見てみたくて、マーケティング部で職場復帰したの!
だけど、麻倉って名前だと関係者だってばれちゃうでしょ?
だから旧姓で名乗ってたの!』
いつものごとく、美魔女スマイル全開で話してくれた
松室さん、いや違うお義母さん。
私テストされてたってこと?全然気がつかなかった。
「そうだったんですね。あの、遅くなりましたが
これ良かったら皆さんでお召し上がりください。」
『まぁ~、幸田の水まんじゅう!
ものすごく並んだんじゃないの?』
「いえ、そんなには並ばずでした」
『あのさ、お二人さん
俺のこと忘れてない?』
『翔駒、あなたはいつでも会えるでしょうに。
咲良ちゃんとは、あなたの母親としては、
初めてお会いするんだからあたりまえでしょうよ!
ごめんね?こんな口の悪い子で
こんな子に育てた覚えはないのにねぇ』
「とんでもない、
いつも翔駒さんにはお世話になっております。
いつも、私のことを気にかけてくださる優しい方です。」
『もう、本当に咲良ちゃんでよかった!
私も咲良ちゃんみたいな娘ほしかったのよ!
これからは、松室さんじゃなくて、お義母さんって呼んでね!』
シェイクハンドしたままお義母さんは飛び跳ねていた。
本当に、かわいい女性!
私も、お義母さんみたいな女性になりたいな…
『おやおや、いらっしゃい。咲良さん。
暑い中、よく来たね!こっちへ座りなさい』
「お邪魔させていただいております。社長。
その節は、大変ありがとうございました。」
『細かい話は、向こうでしようか。
ちょうどお昼時だからね!ランチを用意させたんだ
良かったら、食べていってくれるかい?』
『だから!俺の存在忘れてるって!』
実は、このやり取り長く感じているかもしれないが
所要時間たったの5分なのである。
素晴らしき、マシンガントーク。
シェフの方が用意してくださった料理は、どれもこれも
美味しくて、たまらなかった。
特に、カモのコンフィ
本当に頬っぺた落ちそうになった。
最初の緊張感はどこへやら。
美味しい料理に舌鼓ながら、たくさんのお話をした。
食事を終え、ティータイムとなった。
手見上げの水まんじゅうをお茶菓子に
トメさんが入れてくださった日本茶をいただいた。
話が、ひと段落したところで翔駒さんが本題に入った。
『父さん、母さん
三波 咲良さんとの結婚します。
どうかお許しください』
「お義父様、お義母様よろしくお願いいたします」
二人そろって頭を下げた。
しばらく沈黙が続き、お二人は顔を見合わせ大爆笑した。
『そうね、挨拶まだだったわね。
そんなの飛び越えて、もう咲良ちゃんは家族だったから
忘れてたわ。ねぇ、あなた?』
『ううむ。忘れてたな!ハハハハハっ!
許すも何も、咲良ちゃんは麻倉家の大事な娘だよ
むしろ、騒がしい親ができてしまって不憫なのは
咲良ちゃんのほうだ。すまないね
もしよかったら、自分の実家が一個増えたと思って
いつでも帰ってきてくれないかい?』
「ありがとうございます!お義父様、お義母様」
『ありがとう。親父、お袋』
それからは、爆笑の連続で楽しかった。
お夕飯にもとお誘い頂いたが、今日はお暇することにした。
こうして、無事翔駒さんのご両親へのご挨拶は終わった。
めでたし。めでたし。