バス、来たる。
「おばあちゃーん、行くからねー。鍵かけてくからー」
奥の部屋に引っ込んでなかなか出てこない祖母に向かって、玄関から声を張り上げる。耳が遠いから、聞こえているかはちょっとわからないけれど。
玄関の引き戸を開ける前から型板ガラス越しにぼんやりと雪の吹き溜まりが出来ているのが目に入って、意を決して引き戸を開けると、冷たい風と一緒に溜まっていた雪がなだれ込んできて、小さくため息をついて箒で雪を掃き出した。
お父さんが雪かきをしてから仕事に行ったはずだけれど、さらさらと降り続ける雪は小一時間ほどで3cmは積もってしまったらしい。今日は帰ってきたらまず雪かきだなぁ。そんなことを思いながら歩く足元では、雪がキュッキュッと音を立てる。
バス停へ向かう途中の公園の前にある電光温度計を見上げると、その表示は−2℃。雪が降ってるから今日は暖かい。出来ればこのまま気温が上がらないでくれると、雪が重くならないから有り難いけど。
チャリチャリチャリ……と雪の中で微かな金属音にハッとして顔を上げると、バスが向かい側から走ってきた。私が乗るバスとは逆方向、駅から住宅地方向へと走るそのバスはほぼ無人に近かった。
バス、どのくらい遅れるかな?バスが遅れるのはもはや想定内なのだ。むしろこんな雪の日は、時間通りに走ることの方が期待できない。