だいじなもの。


「怖いの。眠るとすごく怖い」


ポツリポツリと口を開き始めた。



「・・・夢に出てくるの。『ママ』って女の子の声がするの」

「女の子・・・・・?」


「うん。姿は見えないんだけど、何度も私を呼ぶの」



『ママ、ママ』って。



「きっと産んであげられなかった子の声だと思うの。そう思うと『なんで産んでくれなかったの?』そう言われてる気がして目が覚めるの。それが怖くて熟睡できない」



自分の両腕をギュッと抱きしめるように縮こまった。



目が覚めると罪悪感しか残っていない。



その繰り返しなのだ。



フワッ____



マリンスカッシュの香りが強くなったと気づいた時には煌の温もりに包まれていた。



「気の利いた台詞言ってあげられなくてごめん」



ポンポンと優しく頭を撫でてくれた。


「きっとその女の子は奈緒を責めるために呼んでるんじゃないと思う。奈緒が無理な生活してるから心配してるんだと思う」


「・・・・っ・・・・」



煌の言葉がすんなりと心に入ってきて感情を抑えきれなかった。



「大丈夫。大丈夫だから。奈緒は何も悪くないし、産まれてくるはずだった子も奈緒を責めたりしてないよ。きっとその子は気づいてたのかもしれない。奈緒は光瑠と一緒になっても幸せになれないって。自分のせいで母親が幸せになれないのは我慢できなかったんだと思う。だから会うのを先送りにしただけだよ」



「・・・ふ・・ぅっ・・・・」



励ましの言葉に涙腺が崩壊した。



そんな風に考えたことなかったし、考えられなかった。



煌のこういう所が人を惹きつけるいい所だと思う。



そんな煌だから、心が救われた。



煌に出会えてよかった。
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