極上初夜は夫婦のはじまり~独占欲強めな社長ととろ甘結婚いたします~
 私の両親は、私が高校三年のときに離婚したのだけど、母は家を出ていってしまい、私は家に残った。
 決して泥沼離婚だったわけではなく、親として娘の大学受験の邪魔にならないようにと考えて、それが終わる時期にと、父と母とで事前に話し合った結論だった。

 だけど、後でそんな経緯を知っても、私の心の傷が軽くなるはずはない。
 離婚の原因をふたりに聞いても、生き方に関する価値観の違いだ、と抽象的な言葉しか返ってこなかった。

 離婚は夫婦ふたりの問題だし、父と母の場合はどちらか一方に非があるわけではなかった。
 それでも 私には出ていった母が利己的に見えてしまい、距離を置いたことで、それまで良好だった母娘関係にもこのときに確実に亀裂が生じた。

 しかも、専業主婦だった母は離婚してからの方が苦労しているように思う。
 我慢しながら婚姻を続ける選択もあったはずなのに、どうしても父と別れてひとりになりたかった気持ちは、当時の母自身にしかわからない。
 離婚後、母は時折、私の様子をうかがう電話をくれていたが、私が素っ気ない態度を取ったため、それも続かなくなっていった。

 二十歳の成人式のときに、私の振り袖姿を見に式場まで母が来てくれて、一度再会したきりで、それからはずっと疎遠で会っていないのだ。
 最後に会ってから、もう七年が経つ。

「どこで会ったの?」

 娘の私ですら薄い繋がりになっているのに、どうして涼我が会ったのかと不思議に思う。

「うちの会社に来た。俺の会社だって知ってたのか、偶然かはわからないけどな。保険の外交員として、飛び込みで営業に来たみたいだった」

 母は離婚してから保険の外交員をしていると聞いていたけれど、まだその仕事は続けていたようだ。

「お母さん元気にしてるんだね」

「ああ。雰囲気は昔と全然変わらないからすぐわかった。俺のことももちろん覚えてて、懐かしいって」

「……そう」

 母にしてみれば、最後に涼我に会ったのは高校生の頃だから、大人になった今の姿を見てさぞかし驚いただろう。

「和奏のことも聞かれた。元気にしてるって言っといたぞ」

「うん」

 仲がいいとは言えない母の話に私は笑顔になれず、短く返事をするしかできなかった。


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