極上初夜は夫婦のはじまり~独占欲強めな社長ととろ甘結婚いたします~
「俺、ここの常連だから」

 ここを教えたのは私なのに、と喉もとまで出かかった言葉をグイッと飲み込んだ。
『誰が教えたとか、どうでもいいだろ』と返されるのがオチだから。

 蘭々ちゃんが空いた皿をさげようと私の背後から手を伸ばしたときに、涼我の左腕と軽くぶつかってしまった。

「ごめんなさい! 大丈夫ですか?」

 ぶつかった腕を少しばかり大げさに(さす)って謝る蘭々ちゃんに、涼我は「大丈夫」と短く答えて愛想笑いをした。

「涼我さんって、ジムとかで鍛えてます? 腕の筋肉がすごくカッコいいですよね」

「いや、ジムには行ってないよ」

 褒められてもさほどうれしくないのか、涼我は蘭々ちゃんから視線をはずして体の向きをカウンターの方へ戻した。

 蘭々ちゃんは見た目もアイドルみたいでかわいいのだけど、地声のトーンが高いので、しゃべると愛らしさがさらに増す。
 常連客のおじさんたちは蘭々ちゃんが笑って返事をするだけでデレデレだが、涼我は私の知る限り普段と態度は変わらない。
 それでも蘭々ちゃんの方が積極的に アピールしているから、もしかしたら本気で涼我を好きなのかもしれない。
 子供の頃から涼我を知っている私としては、モテ男に成長したのだなと感慨深いものがある。

「蘭々ちゃんはかわいいな。いい子だし、若いもんね」

 テキパキと動く蘭々ちゃんに視線をやりながらつぶやくと、 涼我がフッと表情を緩めて笑った。

「最後の“若い”は余計だろ。年齢なんて関係ないけどな」

「本当に?」

 疑いのまなざしを向ければ、涼我はおかしそうに笑ってうなずく。
 私もつられて笑い、ビールのジョッキを手に取って中身を勢いよく喉へ流し込んだら、涼我がそれにてきめんに反応した。

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