極上初夜は夫婦のはじまり~独占欲強めな社長ととろ甘結婚いたします~
 食欲もあまりなく、たしかに体重は少し落ちている。
 三日前、樹里に三浦さんの家での出来事を話したくて電話したときに、『食欲はないけど、ダイエットになっていい』と言ったら、『ちゃんと食べなさい』と盛大に叱られた。

 樹里は三浦さんを最低な男だとかなり憤慨していて、もう絶対に会ってはダメだと釘を刺されたけれど、私もそのつもりはない。
 それはすでに自分の中で結論が出ているからいい。
 それよりも今、私を悩ませているのは涼我だ。
 涼我に抱かれたことを樹里に話そうかと思ったのだが、電話ではなく会ってからの方がいいと判断してやめた。
 一週間経っても、この件はまったく心の整理ができていないから、もう少し落ち着いた頃に樹里に打ち明けたい。

 今も食欲はないけれど、運ばれてきたビールに口をつける。
 胃になにも入ってないのにアルコールだけを摂取したら、酔いも早く回るし体に悪いだろうか。
 今ここに涼我がいたら、この前みたいに自分が食べている肉じゃがのお皿を私の目の前に持ってくるだろうな、なんて想像したら自然と口もとが緩んだ。

 涼我はいつもそうやって、私を細やかに気遣ってくれていた。
 肉じゃがは量が多くて食べきれないだろうから、今日は出汁巻き玉子にしておこうと、蘭々ちゃんを呼んで注文する。

「この前の温泉、楽しかったですね。また行きましょうね。あれから涼我さんにも樹里さんにも会ってないですけど、おふたりともお元気ですか?」

「え!?」

 樹里に会ってないのはわかるけれど、涼我にも会ってないなんて驚きを隠せなかった。
 だって蘭々ちゃんは涼我とあのときキスしていた仲だし……。

「涼我と蘭々ちゃんって、そのぅ……付き合ってるんじゃないの?」

 真面目な顔をして聞いてしまった私に対し、蘭々ちゃんはバツの悪そうな笑みを浮かべた。

「和奏さん、それ聞いちゃいます?」

「えっと……聞いちゃう」

 私がモヤモヤしているのは、涼我と蘭々ちゃんの関係性もあるからだ。
 温泉旅行でふたりは急接近してキスまでしていたし、付き合う流れになっているはずなのに、涼我はあの日、私を抱いた。
 蘭々ちゃんと付き合っているなら、涼我は恋人に対して不誠実な行為はしないはずだから、どうなっているのだろうと疑問だった。

「告白はしましたけどね。あの温泉のときに。私は好きだったんで」

 ニコニコといつも通り明るい声音で話してくれているけれど、その雰囲気と話の内容が合致していない気がして、私はどう相づちを打てばいいかわからない。

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