【短編】涙の理由を、言い訳させて。
一瞬の勇気を。
「あゆちゃん帰ろー!」
教室のドアから、ぴょこっと顔を出して
いつもわたしの名前を呼んでは
無邪気に笑う幼なじみ。
「理希…あんた上靴で帰る気なの?」
「え?ああっ……!
ちょっと待っててあゆちゃん!
すぐ、戻るから!一瞬で戻ってくるから!」
そう言い残して、理希はビュンと去っていく。
「ったくー、世話が焼けるんだからぁ」
なんて呟くけれど
そんな言葉と裏腹に
思わずふっと笑ってしまった。
__彼の名前は、野村 理希(ノムラ リキ)。
同い年の高校1年生。
性格は……ヘタレだ。すごく。
頼りがいゼロ。おっちょこちょい。
そんな性格からか、あいにくモテない
って、本人が言ってた。
整った顔をしているのに
残念なイケメン。
でも
……それでいい。このままがいい。
わたしだけは、知ってるから。
理希の良いところ、いっぱい知ってる。
優しいんだよ、すごく。
誰かのために
一生懸命になれるところとか
虫一匹殺せない、
ぜったい外に逃がしてあげるところとか
……ぜんぶが大好きなんだよ。
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