【短】桜の下、15歳。
*
先輩は、また桜の木の下にいた。
散りかけて、もう花びらよりも緑の葉がほとんどを占めているその木を、見つめながら。
――『去年、うちの女子生徒がひとり、事故で亡くなったの知らない?』
今日は、風が強い。
――『山野さくら。優とすっげー仲良くてさ』
私は、校舎を飛び出した。
――『いやいや、違うよ、彼女とかじゃなかったんだけど。親友みたいな感じかな。あの時、あいつやばくて。学校もほとんど来れなかったんだ』
先輩は、今日も桜の下にいる。
愛おしそうに……、愛しい人を瞳に映すように。
――『ノート?ああ……あれは、さくらちゃんに最後に貸してたノート。ずっと持ってるよな、あいつ。貸したその日に、亡くなったから……』