【短】桜の下、15歳。
だからだ。

あの日、先輩が驚いた顔をしたのは。

私の、……さくらさんの声を聞いたから。


「さくら」って……、間違ったの。


走って、先輩のそばに駆け寄っても、気づいてはくれない。

この声で、先輩を呼ばない限り。

最初からずっと、そうだった。


「先輩……!」


風の音で、私の声はかき消される。


だけど、先輩なら気づいてくれるでしょ?

彼女と同じ声なら、きっとあなたは聞きこぼさない。


先輩は、桜の木から目を離す。

それでも、私を見ているわけじゃない。


『1-3 山崎優』。
木の根元で、ノートがパラパラとめくれる。
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