Black sweet Darling!《完》
「おい、客だぞ浅里。」


急に声をかけられて驚く。
ぼーっとしてる場合ではない。貴重なお客様だ。


「は、はい!すみません…って柳瀬さんか。」


地上に視線を戻すと、毎日見る彼の顔。

今日はちょっとラフにジャケパンスタイル。

相変わらず整った顔も、もう見慣れてしまった。


「ひどい言い草だな。せっかく注文しようと思ったのに。」

「わー、すいません!注文伺います!」


一杯でも売らなきゃならないのにみすみす逃すわけにいかない。

にっこり笑みを貼り付けて注文を催促するあたしに、白けた目で柳瀬さんは言う。


「いつものやつ。ってか何でこんなとこで店広げてんの?」


まぁそう思うよね。

いきなり公園でコーヒー売ってるんだもんね。


「新サービスですよ!公園でコーヒーなんて、ニューヨーカーみたいじゃないですか?」


適当に思いついたことを言ってみる。

まさか売上30%伸ばすためにやってますなんて言えるわけない。


「ふーん。あっそ。俺には関係ないけど。

そんな仏頂面じゃ客も逃げるぞ。」


ニヤリと嫌な笑みを浮かべ、コーヒーを受け取る柳瀬さん。


何だその顔は!
仏頂面はあんたにだけだっつーの!


「ですよね〜!お仕事頑張ってくださーい」


あたしは引きつりながら柳瀬さんを見送った。


本当に、変な人だ。

わざわざ嫌味を言いにきたのだろうか。

店で買ったほうが近いと言うのに。


それから夕方まで、お客様は数えるほどで、1日目は終了した。
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