俺様Dr.に愛されすぎて
「真木先生。今帰りですか?」
「そ。帰ろうとしたら雨降り出してたから、ロッカーに傘取りに行ってた」
言いながら、真木先生は手にしている黒い傘を見せた。
「藤谷は傘は?」
「会社に忘れたので、車までひと思いに走ろうとしてたところで」
答えると、その目は私が腕の中に抱える鞄を見る。
「車どこだ?そこまで入れてやるよ」
「えっ、けど……」
「いいから。行くぞ」
真木先生は傘を開きながらそう言うと、私の肩を抱いて多少強引に傘の下に招き入れた。
戸惑うけれど、雨の中を一歩歩き出してしまうと傘の下からは出られなくて、仕方なく私はおとなしく彼に肩を抱かれたまま歩く。
ザァァ……と雨音に囲まれた狭い傘の下で、体を寄せ合う。
ていうか……いつも病院内で話す程度だから、思えばふたりきりって初めてで緊張する!
それに対して、真木先生は普通というか、手慣れているというか……。
肩を抱く手の大きさに、この胸は嫌でも音を立ててしまうというのに。その平静さが少し憎い。
こういう手口で世の中の女性を落としているんだ。そうに決まってる。
だから自分は浮かれちゃいけない、と言い聞かせ、私は腕の中の鞄をぎゅっと握った。