俺様Dr.に愛されすぎて
「すごい雨だな。こんな天気でもお前この後も営業?」
「はい。けど他の病院は地下駐車場だったり、ビル内にあったりするので」
「あー、うちが無駄に駐車場まで距離があるだけか。『新和メディカルの藤谷が超愚痴ってた』って院長に言っとくな」
「ちょっと!やめてくださいよ!」
意地悪い冗談にすかさずつっ込むと、彼は子供のようないたずらな笑みを見せた。
そんな子供のような表情がちょっとかわいくて、つい心臓がドキッと跳ねる。
って、なんで!意味がわからない!
動揺を隠すように平然を装っていると、彼はそれに気付くことなく頭ひとつ低い私に目を留めた。
「つーかさ、普通鞄って雨よけにするけど、藤谷は逆なんだな」
鞄?
言われて見るのは、自分が腕の中に抱えた鞄。
無意識に抱えてしまっていたけれど、たしかに。普通の人は鞄を雨避けにするかも。
そんなところに気づくなんて、よくみているなぁ。
「大切な仕事道具ですし。自分は濡れても乾いて元どおりですけど、商品や書類はダメになったら最後ですから」
無意識に、というのは『濡らしてはいけない』という考えが体に染みついてしまっているから。それなら自分が濡れればいい。
その思いで言った私に、真木先生はそっと笑って空いていた左手で私の頭をポンポンと撫でた。
「藤谷のそういう一所懸命なところ、好きだな」
真木先生が笑いながらこぼす、『好き』の言葉に、つい耳は反応する。
す、好きって……いや、この人の言うことだからきっと特別な意味はない。
人として、取引先として好きってだけで、それ以上の意味はないんだから。
……けど。