俺様Dr.に愛されすぎて
それから、修二には『少し考えさせてほしい』と伝え、私たちは食事を終えた。
……やり直すかやり直さないか、なんて考えるまでもないのに。
お店を出て修二と別れた私は、駐車場に置いたままの車をとりに病院へと戻ってきた。
あ……そういえば、真木先生にだけまだしていなかった担当交代の話、帰る前にちょこっと寄って言ってひと言伝えていこうかな。
そう思い、私は建物内へと再度向かう。
「藤谷」
「わっ!」
すると、裏口から一歩踏み込んだところで突然呼ばれた名前に、驚き声をあげてしまう。
慌てて振り返れば、そこにいたのは真木先生だ。
先ほどは黒川さんとともにいた彼は、今はひとり。
「真木先生……どうしたんですか?」
「たまたま通りがかったら藤谷が見えたから」
姿が見えただけでわざわざ声をかけにきてくれたのだろう。そんな些細なことが嬉しい。
「あの、黒川さんは……?」
「菜々なら今、外科のお偉いさんに呼ばれてるよ」
『菜々』。
元恋人なんだから、名前で呼んでいてもおかしくなんてない。
そうわかっていても、その響きがチクリと胸に刺さった。
「それより。聞いたぞ、お前真熊薬品の営業に飯誘われてたんだってな」
「え!?」
「宮脇さんが見かけたんだと。一気に噂になってたぞ」
み、宮脇さん……!
先ほどの修二との再会シーンを見られていたのだろう。『藤谷さんが誘われてるの見ちゃった!』と看護師さんたちに話す宮脇さんの姿が簡単に想像ついた。