俺様Dr.に愛されすぎて




モヤモヤとした気持ちのまま、それから私は予定通り次の営業先へと向かった。

会社へ戻っても帰宅してもモヤモヤは消せなくて、考えれば考えるほど余計その気持ちがわからなくなる。



その翌日の午後のことだった。



「あれ?藤谷、昨日当麻総合病院に行ったときにそのサンプル渡してこなかったのか?」

「へ?」



言いながら部長が指さすのは、部屋の端に置かれた小さなダンボール。

ガーゼやマイクロアプリケーターなど、口腔外科に頼まれていた消耗品の新作サンプルが入った箱だ。



「あ!!」



そういえば、昨日持って行くの忘れた!!



「どうしよう、急ぎでほしいって言われてたのに!」

「今からなら宅配便より直接持って行ったほうが早いな。今日外回りもないだろ?直接持って行け」



部長の提案に頷くと、私は急いでバッグとスーツのジャケット、それとダンボールを手にして「すみません!」とオフィスを飛び出した。



ばっちり用意はしていたのに、すっかり忘れていたなんて……!

口腔外科の先生に平謝りしなければ、そう思いながら使い慣れた社用車に乗り込む。

そしてアクセルを踏み込み、当麻総合病院を目指した。




……真木先生とは、いきあいたくないな。

昨日からモヤモヤし続けるこの胸は、うまく言葉に表せないから。



それから30分ほど車を走らせ、当麻総合病院へやってきた私は、口腔外科の先生にひたすら謝りサンプルを受け渡した。

先生は怒ることなく、むしろ『わざわざすみません』と謝ってくれた。優しい先生でよかった。



「はぁ……ひと安心」



無事目的を果たしたことに安堵し、院内の廊下を歩く。

午後の静かな院内で、真木先生といきあってしまわないようにと足取りは自然と早くなってしまう。

すると、通路の突き当たりで角から現れた人とドンッと勢いよくぶつかった。



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