俺様Dr.に愛されすぎて
「わっ!」
「きゃっ!」
驚き声を上げた私に続き、相手の声も響く。
衝撃によろけながら前を見れば、そこにいたのは黒髪に白衣の彼女……そう、黒川さんだ。
「す、すみません!」
「いえ、こちらこそ……って、あら?あなた、昨日の」
こちらを見てすぐ思い出したのだろう。奇遇ね、というかのように彼女はにこ、と笑った。
薄いオレンジ色のリップが艶めく唇をした彼女は、やっぱり綺麗な顔立ちをしている。
「今日も営業?大変ね」
「いえ、今日は私のミスで忘れ物を届けに……」
へへ、と笑ってみせる私に黒川さんは笑顔のまま口をひらく。
「ねぇ、聞いてもいい?」
「はい?」
「梓が言ってた『好きな人』って、あなた?」
唐突なその問いかけに、ギクリと心臓がはねる。
「なっなんで……!?」
「そりゃあ見てればわかるって。長年付き合った元彼氏のことなんだから」
なんの気なしに答えたのだろうけれど、そのひと言がまたチクリと胸を刺す。
『長年』、その言葉が彼と彼女の時間を感じさせて、いやだ。
「……告白は、され、ました、けど」
そんな美人女医の元カノの前で堂々と『はい、私です』なんて言い切れるわけもなく、けれど嘘をつくわけにもいかず。答えはしどろもどろになる。
それを聞いて、黒川さんは「ふーん」と納得した。
「へぇ、あの梓が自分から告白ねぇ。しかも、私が知ってる梓の好みとは大分違う子に」
今度ははっきりと感じられた嫌味に、なんて答えていいかがわからない。
黙って鞄を抱える私の反応に、黒川さんはつまらなそう笑みをうかべたまま口をひらいた。
「ここだけの話、梓ね、私と同じニューヨークの病院に異動しないかって誘われてるの」
「え……?」
ニューヨークの病院に、異動……?
初めて聞くその話に、彼女の目を見ると、ふっと浮かべた笑みはそれまでのにこやかなものとはどこか違く、少し怖い。