俺様Dr.に愛されすぎて
「そ……そういうこと、軽く言わないほうがいいですよ。私はともかく、人によっては誤解されます」
いや、あくまでも人によってはだけど。私は全然、全っっ然誤解とかしてないけど。
心の中で必死に念押ししながら言う。
すると、真木先生はなにを思ってか一瞬黙った。
そして、傘の下の視界から自分の社用車の先が見えた……その時だった。
「……別に、軽くないんだけど」
真木先生がぼそ、と呟いた言葉に、その意味を問いかけようと「え?」と声がもれた。
その微かにひらいた口を塞ぐかのように、近づいた顔は、そっと触れるだけのキスをする。
視界をいっぱいに埋め尽くす、色素の薄い茶色い目。
確かに感じた、薄い唇の柔らかさ。
微かに漂う、コーヒーの香り。
その瞬間だけ、雨の音が消えた気がした。
え……?
なに、今の……。
驚き目を丸くする私に、真木先生は顔を離すと、それ以上言葉を発することはない。
そして自分が持っていた傘を私の左手に持たせると、なにも言わず傘の下から出た。
「えっ、あ……」
上手く言葉が出てこずに、戸惑うしか出来ない私を振り返ることもなく、彼は雨の中をスタスタと歩いて行った。
へ……?え?へ?は?
なに今の?
今のって、キスって、えーっと……
頭の中でもう一度、今さっきのことをぐるぐると思い出す。
けれど、考えれば考えるほど現実味が薄れるだけで、私はただ雨の中立ち尽くすしか出来なかった。