俺様Dr.に愛されすぎて



「失礼します、阿部先生いらっしゃいますか?」



ひょこ、と顔を覗かせ言う女性看護師に、俺は首を横に降る。



「いや、ここには俺だけだが」

「あれー?どこ行っちゃったんだろう……新和メディカルさんが訪ねて来てるのに、阿部先生が見つからないんですよねぇ」



『新和メディカル』その名前からすぐ連想される顔に、俺は無言で部屋を出て足早に内科受付へと向かう。

新和メディカル……ということは、藤谷が来ているはずだ。



『真木先生とは付き合えません』



先日の彼女の言葉を思い出すと胸がズキ、と痛む。

けれど、それでも顔を見て話したいと思うのは、やっぱり彼女が好きだから。

付き合えない、とフラれても。



……と思いながらも電話の一本も出来ない自分が情けない。

けど出てもらえなかったり、最悪着信拒否されていたらと思うと、勇気が出ない。絶対ヘコむ。



「藤谷!」


早足で勢いのまま、内科受付へと乗り込んだ。

……が、そこにいたのは藤谷ではなく、スーツを着た20代前半の若い男。

その男と看護師たちは、きょとんとした顔でこちらを見た。



「真木先生、どうしたんですか?いきなり」

「藤谷は!?来てるか!?」



看護師長の宮脇さんの肩を掴んで問いただすと、宮脇さんが答えるより先にスーツ姿の男が口を開いた。



「あっ、ご紹介遅れました!私、藤谷の後を引き継いで当麻総合病院さまの営業担当になりました、永野と申します」



藤谷の後を、引き継いで……って?

その言葉の意味がすぐに理解できず固まる俺に、その男……永野は『あれ?』というように不思議そうな顔をする。



「もしかして藤谷さん、交代のご挨拶してなかったですかね?」

「えー?私たちは聞いてたわよ?他の先生たちも、みーんな知ってるし」

「は!?」



営業担当の交代を、俺以外は全員知ってるだと!?

そんなの聞いてないぞ!あいつめ……!!



つまり、今後は会おうと思わなければ会えない。

……でもって、フラれた俺は、どのツラ下げて会いたいなんて言えばいいかもわからない。



悔しくて、もどかしくて、こみ上げる苛立ちをぐっと堪えた。







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