俺様Dr.に愛されすぎて
初めて彼女と会った時の印象は、なんてことない、ごく普通の営業の人だった。
『初めまして』
にこにことした明るい笑顔と、“ふじたに”じゃなくて“ふじや”。
印象的だったのはそのふたつだけで、特に好みでもなければ、以降親しく接しても恋愛対象として見ることももちろんなかった。
その感情が変わったのは、1年ほど前のある日だった。
『せっ先生!真木先生ー!!助けて!!』
診察も終わり静けさの漂う院内に、藤谷が大騒ぎで駆け込んできたことがあった。
それも、背中におばあさんをひとり背負って。
どうしたものかと聞けば、病院入口の階段で足を滑らせたおばあさんを受け止めたはいいけれど、痛がるおばあさんにどうしたらいいのかわからずとりあえずここまで連れてきた、という。
『頑張って受け止めたんですけど、支えきれなくて後ろにひっくり返っちゃって……もしかしたら体ぶつけちゃったかも!どうしよう!!』
『とりあえず診てみるから。悪い、誰か患者さんを診察室のベッドに』
俺の指示から一気に動き出す看護師たちにより、『ごめんねぇ』と申し訳なさそうに謝るおばあさんは、診察室に運ばれていった。