俺様Dr.に愛されすぎて
「俺は、ニューヨークには行かない。今ここでこの地域の人たちの力になりたい」
俺が目を向けた先には、青空の下にいくつも並ぶ家々。
この国のこの街にも、沢山の人が暮らしている。毎日沢山の人が医師を頼りにここへやってくる。
海外で活躍することも、様々な人の役に立てるかもしれない。
けれど、今俺はここで、自分の力を活かしたい。
「菜々のことも、嫌いになったわけじゃない。けど、俺にとってはもう思い出だ」
菜々に感じた愛しさも、寂しさも、別れたときの胸にぽっかりと穴があいたかのような感覚も。もう全て、思い出でしかない。
この胸はもう、彼女のことしかうつせない。
「今は……彼女のことしか、見えない」
愛しいのも悲しいのも、藤谷にしか感じられないんだ。
その思いを隠すことなく、はっきりと言い切る。
そんな俺に菜々は背中から離れ、驚き呆然として、悔しそうに唇を噛む。
「なんで!?もうフラれたんだから諦めなよ!」
……率直な言葉で突かれて痛い。
諦める。確かに、そうするべきなのかもしれない。
藤谷には他に相手がいて、何度伝えてもこの気持ちはきっともう届かないのだから。
……けど。
「悔しいけど、一回フラれたくらいじゃ諦められないんだよ」
何度言っても気持ちを信じてもらえなくて、やっと耳を傾けてもらえたかも、と期待をしたところで元カレのほうを向かれた。
悔しいし悲しい。けど、それでもこの心は彼女の姿を描いている。
藤谷の笑顔が、消えない。