俺様Dr.に愛されすぎて
笑って言った俺に、菜々は言葉を失い俯いた。
「……なにそれ。バカみたい」
「あぁ、バカかもな」
その言葉すらも笑って受け入れた俺に、それ以上話すことを諦めたかのように「もういい」とドアの方へ向かう。
きっと泣いているのだろう。
泣き顔を見せまいすぐ背中を向けるのは彼女の癖で、変わらない強がりな性格をうかがわせた。
「菜々。向こう戻っても、頑張れよ」
同じ医師としての、精一杯の励まし。
それに対し、菜々はこちらを向くことはない。
「……言われなくても」
ぼそ、とそれだけを呟いて去っていく彼女の姿とともに、カツカツ……と靴音も遠くなっていった。
……本当に、バカかもな。
みじめでかっこ悪い。けど、そう思われたとしても、彼女への気持ちは消せない。
先日藤谷と観た映画のなかで、主人公は好きな人の幸せを思って身を引いた。きっとそれが、美しく正しい判断なのだと思う。
けど、そんなこと思えない。
好きだからこそ、身を引くなんてできない。
かっこ悪くたって、何度もぶつかってくだけてやる。
俺のとなりで、幸せになってほしい。
俺が、幸せにしたい。
心にあるのはその思いひとつだけだ。
「けど、どうするか……」
電話も出てもらえないし、かといって会社に連絡したりするのは卑怯だしな……。
どうするか、と考えながら、俺はふたたび柵に寄りかかり街を見た。
すると、なにやらキャッキャとはしゃぐ声が聞こえるとともに屋上のドアが開いた。
見ればそれは、受付で働く女性ふたり。
少し遅い休憩をとろうと、コーヒーと弁当を手にやってきたらしい。
ふたりは俺の存在に気づくことなく、喋りながら屋上に置かれたベンチに座る。