俺様Dr.に愛されすぎて
「さっき真熊薬品の柳さん来てたよね?」
「うん、ちょっとだけ話したけどやっぱかっこよかった~」
「えー、いいな~」
真熊薬品の柳……って、あれだ。
以前藤谷を食事に誘っていたって噂の。聞けばあれが藤谷の例の元カレなのだという。
何回か見かけたことあるけど、確かに顔はかっこよかったな。女性たちが騒ぐのもうなずける。
「確か今フリーなんだよね?」
「うん、もちろん確認済み。けど、元カノへの気持ちがまだ断ちきれなくてアプローチ中らしいよ」
『元カノ』、その響きに耳がピクリと反応する。
「今夜デートするらしいんだけど、付き合ってた時に初デートで行ったところでもう一度告白するんだって!」
「やだロマンチックー!」
元カノって、つまり、藤谷に告白……?
初デートで行った場所でまた告白なんて、少しでも思いがあれば、彼女の心もきっと揺らいでしまうだろう。
「それどこだ!?」
「へ!?えっ、真木先生!?」
そう思うと黙って聞いてはいられず、それまで黙っていた俺は女性たちに問いただす。それに対し、突然現れた俺に目を丸くした。
「その初デートした場所って、どこか言ってたのか!?」
「は、はい、確か東京タワーで……」
「東京タワー……」
そうか、と納得すると、俺はバタバタとその場を後にする。
元カレに告白されようと、俺が諦めきれなくとも、どうするか最終的に決めるのは、藤谷だ。
無理にいいくるめたいわけじゃない。君に、選んでほしいから。
だからこそ俺は、あの時迷う藤谷を強く引き留めなかった。
けど正直、今、そんな自分の行動をほんの少し後悔している。
本当は、『俺にしろよ』って言いたかった。強く抱きしめて、離したくなかった。
……選んでほしい、とかそんなことにこだわらず言えばよかった。
藤谷、好きだ。好きだよ。
強く感じる愛しさを、何度だって言葉にして。