俺様Dr.に愛されすぎて
2.翻弄される腕の中
午後から大雨が降った日。そのまま翌日も丸一日雨は続き、その翌日もどんよりとした空が広がっていた。
そんなすっきりとしない天気の日を越え、今日の空はようやくカラッとした晴れだ。
4月下旬の清々しい陽気の中、オフィス内の人々は窓の外の太陽の眩しさに目を細める。
その隣で、私はひとりひたすらカタカタとパソコンのキーボードを叩き続けていた。
ファイルを開いては数字を入れ、仕事をひとつ、またひとつと片付けていく。
そんな私を見て、周囲の男性社員たちが「藤谷気合い入ってるなー……」とボヤいているのが聞こえた。
仕事はいい。
集中できるし、こなした分だけ成果が出てやり甲斐がある。それがお給料や査定にもつながる。それに……。
「藤谷さーん、コーヒーここに置いておきますね」
「うん、ありがとう」
事務の女性社員が置いてくれたコーヒーカップに、私は一旦手を止め、それを手に取った。
湯気の立つコーヒーに口をつけると、鼻から入り込む濃い香り。
その香りからふと思い出すのは、先日の真木先生とのキス……。
頭に浮かぶキスシーンに、コーヒーをゴクンと思い切り飲み込む。
けれど淹れたてのコーヒーはもちろん熱く、その熱さに喉と唇に衝撃を覚え私はひとりデスクの上で悶絶した。
『なにやってるんだよ』と言いたげな周囲の視線を感じながら、咳込み呼吸を整える。
そう、いつも以上に仕事に熱心に打ち込むのは、そうしないと落ち着かないから。
ふとした瞬間や些細なことから、彼とのキスをすぐ思い出してしまうからだ。