俺様Dr.に愛されすぎて
仕事の後、結局私は修二とともに食事へと出かけた。
彼が予約をしてくれていた品川のお店は少しリッチで、仕事後のスーツ姿でくるには少し気が引けてしまうようなお店だった。
「ちょっと……大丈夫なの?ここ、結構高そうだけど」
「値段なんて気にするなよ、そういうところ昔っから変わらないよなぁ」
あはは、と笑いながら修二はグラスの中のワインをひと口飲んだ。
自分の過去を悔やんで、変わろうと決めた彼は、きっとこういうお店ひとつも私を喜ばせようと選んでくれたのだろう。
その思いは、嬉しい。
けど、『嬉しい』だけで、それ以上も以下もない。
あの頃彼に感じていたような、そして今まで真木先生に感じていたような、そんなときめきは、ない。
それだけで、気持ちに答えは出ているようなものだ。
けどそれでも、もしかしたら、これから変わるかも、なんて。何度も何度も言い聞かせる。
食事のあと、彼に誘われ私たちはふたりで浜松町へとやってきた。
なんでも行きたい場所がある、とのことで、どこだろうとついてきてみれば……。
彼が足を止めた場所、そこは東京タワーの前だった。
夜の東京タワーは、暗い空にほんのりと赤く光る。
それを見上げて、修二は笑った。
「覚えてるか?ここ、初めてのデートで来たよな」
「そういえばそうだね。懐かしい」
そう。夜空に輝く東京タワーを見て思い出すのは、彼と付き合ったばかりの頃のこと。
ふたりで東京タワーにのぼって、街を見下ろして、お互いに『家はあの辺』『会社は向こう方面』なんて話をした。
『いつか一緒に住むならあの辺りかな』、なんて話も。
この5年、そんな日々を思い出しては苦しくてつらかった。
だけど、真木先生の想いを知って、いろんな気持ちと向き合って……そのつらさは、薄れていったんだ。
すると修二は、同じように東京タワーを見上げる人々の中、私と向き合う。