俺様Dr.に愛されすぎて
「どうしたんですか?なにかダメな理由でもあるんですか?」
「え!?いや、そんなことはないけど……」
「あ、もしかして藤谷さんがそのイケメンといい感じとか?」
い、いい感じって……!
言われて思い出す。先日の、真木先生の言葉と額に触れた唇の感触。
『藤谷』
そう名前を呼んで、優しい瞳で見つめるから。
だからいっそう、まぶたの裏に焼きついて消えなくて、そんな些細なからかいにもいちいち頬が赤くなってしまう。
「もう!私のことはいいから、さっさとこれ終わらせるよ!」
「はーい」
よみがえる感覚を振り払うかのように、気を入れ直し作業に再度取り掛かった。
あんな本気か冗談わからないような、いや、ほとんど冗談にも聞こえるような言葉を間に受けて、恥ずかしくなってしまうなんて。
あしらえない自分が、情けない。
その度に、過去を思い出して胸を痛めてる。
『好きだよ、沙織』
……そう。本気になんてするな、自分。
痛い目を見て、懲りたはず。
もうあんな思いはしたくない。しない、ために。甘い言葉を、簡単に信じたりしない。