俺様Dr.に愛されすぎて



「あの、もしもの話ですけど……もしも、仮に、真木先生が本気でそう言ってるとして、どうして私なんですか?」

「え?」



それは、彼の言葉が信じられない理由のひとつ。



「私は特別美人でもないし、スタイルがいいわけでも、賢いわけでもないし……真木先生なら、もっと素敵な女性が周りにたくさんいると思うんですけど」



なんで私を、そう思うほどにその言葉が余計信じられなくなっていく。

そしてその度、また思い出すのはあの男の言葉だ。



『自分にそこまでの価値があると思った?』



自分の価値を突きつける、残酷な正論。

胸をチクリと刺す痛みをこらえるようにこぶしをぎゅっと握る。



すると、その手をそっと包む大きな手。

見れば、信号待ちで車を止めた真木先生は、左手で私の右手を握っていた。



偶然のタイミングだったのかもしれない。

けど、私にはこの心を読まれた気がして、驚く反面どこか安心感を覚えた。



「藤谷は、いつも全力だから」

「え?」



私が、全力……?

たずね返すと、彼は前方に並ぶ車たちのブレーキランプを見つめている。



「病院って場所にいるとさ、いろんなことに気をつけなくちゃいけなくて、精神的に敏感になる。けど、それと同時に鈍くもなっていくんだよ」

「鈍く……?」

「毎日のように、命をつないで、亡くして、そんなことを繰り返すうちに死ってものに対する感覚が、少しずつ少しずつ麻痺していく」



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