俺様Dr.に愛されすぎて
それからしばらくして、池袋から数駅離れた先にある桜台駅……私の自宅の最寄り駅の前で、車が止められた。
「ここでいいのか?家の前まで送るけど」
「いえ、すぐ近くですし道も狭いので。ありがとう、ございました」
小さく礼をしてシートベルトを外す。すると真木先生は思い出したように、車のポケットから紙を取り出しなにかをすらすらと書いた。
「これ」
こちらに差し出したその紙に書かれているのは、11桁の番号。
携帯番号だろう。恐らく、真木先生の。
「なにかあったら、今度からこっちに直接連絡くれていいから。仕事中以外なら出られるし、出られなくても折り返すし」
仕事中以外なら……ってことは、プライベートの、携帯番号。
「イタズラ電話するかもしれませんよ?」
「いいよ。藤谷からの電話なら、どんな用件でも嬉しい」
そう彼が見せた笑顔は、子供のようでかわいらしい。
車を降りて小さくお辞儀をすると、真木先生は「じゃあ」と手を降り車を発進させた。
遠くなる車に、手には彼の感触が残る。
こうしてまた、些細なことひとつに胸が鳴る。
「……電話番号、もらっちゃった」
自分から電話なんて、できるかわからない。
だって、なんて話していいかわからないし、本当にかけてもいいかも、わからない。
けど、胸に込み上げる気持ちは“嬉しい”の気持ちひとつだけ。
こうしてまたひとつ、近づいた距離が嬉しいって感じられるんだ。
私を『眩しい』と言ってくれた彼の思い。
渡された電話番号。
どれも、ふたりの間を近付けてくれる。
夜の駅前でひとり、手の中の紙をぎゅっと抱きしめた。