俺様Dr.に愛されすぎて



「な……なんですか」

「いや、藤谷さんと真木先生、仲良いなぁと思って。ねぇ?」



『仲良い』の言葉に仕事相手以上の意味を含ませながら言う宮脇さんに、皆も「うんうん」と頷く。



「仲良くなんてないです。それに、真木先生のことだから女性にならみーんなこんな感じだと思いますけど」

「あ~……まぁ、否定はできないけど。でも優しいしかっこいいし、いいじゃない。この際だし付き合っちゃえば!」



軽い調子でそんなことを言う宮脇さんに、私は少し黙ってから口を開く。



「……私、今年28歳になるんです」

「へ?」

「もうアラサーって呼ばれる年頃で、にも関わらず彼氏いない歴5年で、いろいろ慎重になる時期なんです」



私の深刻な声のトーンに、宮脇さんはつられて真剣な顔になる。その空気を破るように、私はバン!と受付カウンターを叩いた。



「だから、ここであんなチャラついた医者に割く時間なんてないんです!そんな暇があるなら老後のために貯金する!そのためにはまず、仕事でいい成績出すためにひとつでも多く営業回ります!!」

「そ、そうね……頑張って」



そう。誰かと付き合うとなれば、結婚だなんだといろいろ真剣に考えなければならない年齢。

そんな最中に、あの男の軽口を本気にしたりして翻弄されたくなんてない。



仕事も一人前と呼ばれるようになって、自分なりにこなせるようになってきたわけだし……今の自分が優先するべきは、なにより仕事だ。



……ていうか、そもそも向こうが願い下げだろうしね。

私をそういう目で見て言っているわけじゃない。『かわいい』とか、そんな言葉、息をするように吐き出しているだけ。

そう、だって。



『沙織のそういうところ、かわいくて好きだよ』



不意に思い出す影を振り払うように、仕事を再開させた。





軽々しくその言葉を口にする男なんて、信用できない。

翻弄されて、浮かれて、傷つくなんてしたくないから。






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