俺様Dr.に愛されすぎて
「藤谷ー、お前そろそろ結婚とかしないのか?」
それは、どんよりとした曇り空のある日。
池袋にある会社内で、パソコンにデータ入力をしている最中、部長から言われたひと言だった。
色黒の肌にパーマのかかった黒髪が実年齢より若く見える、40代後半の部長から振られた話題は、どう考えても仕事に関係ない話。
しかも営業部のフロアの真ん中で言われたデリカシーのない内容に、私は相手が上司にも関わらず怪訝そうに顔をしかめた。
「……なんの話ですか、部長」
「いやぁ、藤谷は先月も営業成績トップで喜ばしいんだが……お前ももう30近くだろう?結婚とか考えてないのか?」
「失礼な言い方やめてください!まだ27です!あと考えるもなにも相手がいないんだから仕方ないじゃないですか!」
って、こんなこと言わせないでよ!
怒り気味に言う私に、部長はうっすらとヒゲの生えた顎をさすりながら呆れたように溜息をつく。
「そりゃあ仕方ないといえば仕方ないが……おーい、誰か藤谷貰ってやれよ~」
冗談混じりに、嘆くような口調で言う部長に、室内にいた男性社員たちは皆サッと目をそらす。
貰ってやれって、人を余り物みたいに!しかも男性社員たちも聞こえないふりをするなんて、ひどい!
部長にも周囲にも、思わず「ちょっと!」と突っ込むとそれを見ていた経理部の先輩社員が口を挟む。