あなたと私の関係
やっぱりだめか。
分かっていたけど、どうしたもんかなぁ。
家賃も光熱費も食費もいらない。家政婦というだけでここに置いてもらっている以上、こういう所で恩返しをしないといけないのに。
エゴだとか自己満足とか言われたらそれまでだけど、それでも、私は。
「…私、昔から体だけは丈夫な子でした」
「………なんだ、いきなり」
「ただの独り言なので、聞き流してもらって大丈夫です」
思い出すのは、むかしのこと。
まだお父さんが生きていた、あの頃。
「一度だけ、インフルエンザにかかった事があったんです。大したしたことなかったんですけど、もう本当に食欲がなくて」
「…」
「意識もそこそこ朦朧としてて看病された記憶とかはあんまりないんですが、その時お母さんは今みたいに出張に出てまして、かわりにお父さんが有給使ってずっと付いててくれたんです」
「…へぇ」
「家事は昔からほぼ私がやっていたので、お父さんはもちろん料理なんてカップ麺作るくらいしか出来なくて。
でもその日だけは、何時間もかけて私のためにおうどんを作ってくれたんです」
まだ火の通っていない硬いままのにんじん。
のびのびのうどん。
大きさがバラバラのネギ。
卵の白身に隠れた細かい殻。
「普通シンプルに食べやすいように素うどんとかにしませんか?なのにお父さんはとにかく元気が出るように、栄養がつくようにって冷蔵庫にあった入れれそうなものを全部突っ込んだみたいで。とても美味しいとは言えないものでしたけど、私、見事完食しまして」
「…気合いだな」