あなたと私の関係
俺の問いにふるふると首を振る。
「なら、話が早い。割り切ればいい。自分を捨てて、この役に乗り移ればいいだけの話だ」
「…雨宮さんは自分のこと、お嫌いですか?」
「あぁ、嫌いだな。」
自分を好きだと思ったことなんて一度もない。
あの日あいつに俳優をやめろとまで言わせてしまった自分も
菜穂子に助けられるまで自分で歩けなかった自分も
嫌いで嫌いで、仕方ない。
「どうして、ですか?」
ビー玉みたいに真ん丸な瞳。
時折俺をのぞき込むそれは、ひどく心をざわつかせるから、思わず目をそらしてしまう。
「俺は、口数も少ない上に人の気持ちを汲み取るのが下手だろう。その上嬉しいとか、感謝だとか、そういう気持ちを伝えるのも人一倍苦手だ。だから」
「そんなこと、ないです」
顔を上げると、目の前には優しく微笑む、飼い犬。
「雨宮さんは優しいです。とってもとっても、優しいです。それにお仕事のときはとっても真剣で、かっこいいと思います。
知った口を聞くようですが、私は雨宮さん好きなところ、沢山あります」
…飼い犬のくせに。
無防備で、欲のない、真っ白な笑顔。
心にぱっと明かりが灯るように、じんわりと温まるような、そんな感覚。
好きだなんて意図も簡単に口にして、だから心配だと言っているのに。
「……相手役は、誰だ」
「この間の圭吾先輩です」
む。
話をそらそうとしてした質問なのに、またしても聞き捨てならない名前だ。