あなたと私の関係




数日前、初めて小娘に声を荒らげた。




帰りも遅い上に男に飲み物を買ってもらったなどと嬉しそうに話すから、やけに腹が立った。




なにもないのに男が女に金を出すわけないだろう、このアホ。




「この脚本通りだと、軽い抱擁くらいはあるんじゃないのか」




「そうですねぇ。まぁでも、圭吾先輩なので」




なので、なんだ。





そう言いそうになって、飲み込んだ。




この間も大人しく抱きしめられていたところを見ると、もしかしたら満更でもないのかもしれない。





……気に食わん。





「よし。ここから読んでみろ」





「え、ここからですか?」





俺が指さしたところを見て頬を赤らめる小娘。





ラストシーン、相手の男と再会して想いを伝え合うという場面。




「ここをこなせば大体はいけるだろう」




「そうですけど、いきなりこんな…!」




「うるさい。つべこべ言わずやるぞ。」





…未亡人の女など好きになったことはないが。





もしこいつが菜穂子さえ亡くして一人になったとして。





寂しいと泣いた時に、自分がどうするかくらいは想像がつく。





「………"俺がもし、サチを好きだと言ったら困る?"」




「っ、"困りなんてしません!ただ、頭の隅に、あの人がいるんです"」




面白いくらいの、棒読み。




感情移入だとか、なりきるだとか、そんなレベルではないくらいの音読。




それでも、セリフでも。





こいつが別の男のことを思っているのかと思うと、手を引きたくなる。









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