あなたのことは絶対に好きになれない!
朝比奈さんはポカンとして、何も言わなくなった。
そりゃあそうだよね……王子様みたいで素敵だと感じていた人が、急にとんでもない暴言吐いてきたんだから……。


「行くぞ」


オウスケくんは私の手を引っ張り、外へ出た。


「あ、あの……」

状況が上手く飲み込めずにオロオロとしていると、彼は私から手を離した。でも。


「俺ここで待ってるから鞄持ってこい。一緒に帰るぞ」


さらりとそう言われ、ますます意味が分からない。


「えっ、そんなの無理ですよ、私たちだけ途中で抜けるなんて……」

「吉山さんには言ってある。クミが具合悪そうだから連れて帰るって。吉山さんも良い感じになってる男の人いるみたいだし、気にしてなさそうだった」

「で、でも……」

「早く」

有無を言わさない雰囲気でそう言われる。
凄く強引……だけど、ドSモードとは少し違うような……?


とりあえず、私は言われるがままに、個室に戻ってバッグを手に取った。

バッグは、吉山さんの後ろの壁際に置いていた。

バッグを手にしたのとほぼ同時に、吉山さんに「具合大丈夫?」と言われた。
どうやら、私とオウスケくんが二人きりで〝抜け出す〟とは全然思っていないようだ。


「す、すみません。飲んでいないのに」

そうだよ、よく考えたらノンアルコールなのに具合が悪くなるはずはないのだけれど、吉山さんは特に気にする様子もなかった。

吉山さんによると、私の分の支払いはオウスケくんがしてくれたそうなので、私はそのまま個室を出た。
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