無炭酸サイダー




数えきれへんくらいの思い出と引き換えに、うちは恋を失っていった。

居心地がいい分だけ、相手にとっての自分が恋人にはなれへんのやって実感させられた。



好きって思うたびに、うちはどうしようもなく悲しかった。

届かへん想いは、空に向かう。

気泡は弾けて、弾けた気泡は戻らんくって、そしたら炭酸はなくなっていく。

甘いだけのジュースは、幸せを与えてはくれへんし、喉の渇きを悪化させる。



うちの恋はきっと叶わへんし、叶わん方がいい恋なんや。



ぐっと勢いよく、サイダーを喉の奥に流しこむ。

ええ飲みっぷりやなぁ、と上牧はペットボトルのキャップを閉めた。



「あ、そうや、お前進路決めたん?」



上牧の言葉にぐっと喉にサイダーが引っかかる。

それは、うちがずっと知りたくて、でも知ってしもたらその答えに縛られる気がして、訊けなかったこと。

せやのに上牧はこんなかんたんに尋ねるんやからやってられへん。



「なぁ水瀬〜聞いてんのか〜!」

「聞いとる聞いとる。うちの進路はまだ決めてへんよ。でも女子大とかもありかもな」

「はあ⁈」



ゴトン、とペットボトルがアスファルトの上に落ちる。

蓋を閉めとったからええものの、危なすぎる。

いやでもこれ絶対泡立ってるやん……!



焦るうちに反して、上牧はサイダーを拾うことさえせーへん。

いやほんまに、なんでやねん。






< 4 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop