無炭酸サイダー
数えきれへんくらいの思い出と引き換えに、うちは恋を失っていった。
居心地がいい分だけ、相手にとっての自分が恋人にはなれへんのやって実感させられた。
好きって思うたびに、うちはどうしようもなく悲しかった。
届かへん想いは、空に向かう。
気泡は弾けて、弾けた気泡は戻らんくって、そしたら炭酸はなくなっていく。
甘いだけのジュースは、幸せを与えてはくれへんし、喉の渇きを悪化させる。
うちの恋はきっと叶わへんし、叶わん方がいい恋なんや。
ぐっと勢いよく、サイダーを喉の奥に流しこむ。
ええ飲みっぷりやなぁ、と上牧はペットボトルのキャップを閉めた。
「あ、そうや、お前進路決めたん?」
上牧の言葉にぐっと喉にサイダーが引っかかる。
それは、うちがずっと知りたくて、でも知ってしもたらその答えに縛られる気がして、訊けなかったこと。
せやのに上牧はこんなかんたんに尋ねるんやからやってられへん。
「なぁ水瀬〜聞いてんのか〜!」
「聞いとる聞いとる。うちの進路はまだ決めてへんよ。でも女子大とかもありかもな」
「はあ⁈」
ゴトン、とペットボトルがアスファルトの上に落ちる。
蓋を閉めとったからええものの、危なすぎる。
いやでもこれ絶対泡立ってるやん……!
焦るうちに反して、上牧はサイダーを拾うことさえせーへん。
いやほんまに、なんでやねん。