キミと初恋。
くしゃくしゃになった袋を私に押し付けて、先輩はまた私に背を向けて教室を出て行く。

アイス食いに行くぞ、なんて言葉が人気のない廊下で小さく響いて、立ち止まったまま呆けていた私は慌てて後を追いかけた。


ーー色々と、悪かったな……。


どうやらヒーローは不器用みたいです。



「そういや、財布とか教科書とか大丈夫だったのか?」


思い出したように振り返った先輩は、袋に入れた私のカバンに視線を投げた。


「大丈夫です。財布はいつもポケットに入れてますし、教科書は全て机の中ですから」


なんて、本当は教科書は一部カバンの中に入れていた。それはどこに行ったのかは分からない。

でもそれを今言うのは野暮な気もしたし、これ以上この事で波風立てたくないと思ったから敢えて伏せておいた。


「ははっ、いつも机の中ってお前、家帰ってから勉強する気ないだろ」

「先輩こそ同じでしょ。先輩のカバンだってぺったんこじゃないですか」

「俺は勉強しなくてもできるからいいんだよ」


適当なこと言って……って言いたいところだけど、それが事実だから言えないのが悔しい。

先輩は実際のところ頭がいい。テストの時、成績優秀者10名のみ職員室の隣に名前が張り出されるけど、先輩はいつもその中に記載があるんだ。


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