キミと初恋。
……なんて、沈んで消えてしまえるわけ無いし。

教室の床はやっぱりただの床だし。


青井先輩もただのハリボテパネルかなんかだったらありがたいのに、そうじゃ無いし。

鋭く睨む眼光、あれはパネルなんかで再現できるはずがない。


「あっ、あのぉ〜」

「昨日はどーも」

「い、いえいえこちらこそ」


返答がおかしいって事は私だって承知の上だ。

だけど、なんて答えたらいいのか分からなくてつい近所の主婦同士の会話みたいな返事をしてしまった。


そしたら青井先輩が「はっ」なんて短く笑い声をあげた。

その声に引かれるように逸らしていた目線を合わせると、青井先輩はにっこり微笑んでくれていた。


ほっと息をつこうとしたのも束の間、私の腕は先輩の大きな手にがっちりホールドされていた。


「昨日の“お礼”がしたくてさー。ちょっと時間くれる?」


お、お礼……?

なにそれ。それってよくヤンキー漫画とかで見るお礼参りってやつ……⁈

こっ、怖いんですけど!


「あー……いやぁ〜、私ちょっと用があるのでこれにて失礼しま」

「時間は取らねーよ」


私の腕を掴む先輩の手が、更に強さを増した。


「えっと、ちょっとトイレに」

「つべこべ言わずに来い」


辛抱切れたのか、先輩は私を引きずるようにしてズカズカと廊下を歩き出した。


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