間違いだらけ
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あれから、しばらくが経った。今日は葵の言っていた先輩とのデートの日だ。
恐らく、葵は本当に告白をする。そして、成功するだろう。なぜなら、葵はルックス的にも性格的にも、申し分ないものを持ち合わせている。そんな男から告白されて、寧ろ断る人の方が珍しい。
思わずため息を吐いた。
初めから勝利がわかっているものを見届けなければならないだなんて、そんな残酷なことは無い。
今日まで、私は気持ちの整理をつけることに必死だった。あれから、葵とは一言も会話を交わせないままだ。話しかけられても、なんだか気まづくて逃げ出すの繰り返しで、失礼なことばかり続けていた。
とうとう最後の金曜日では、投げやりになって、どうせならこのまま疎遠になればいい、などと思っていた。
今の時刻は、朝の十一時半。
葵はもう先輩の所にいるのだろうか。
布団に潜りながら、意味なくスマートフォンを凝視する。
また自分から突き放したくせに、やはり心配している私はつくづく馬鹿だなと改めて思った。
そのとき、スマートフォンのホーム画面に、いつも利用しているSNSのポップアップが表示された。
その主の名前は、”葵”と表示されている。
「……」
どくんと心臓が跳ねる音がした。
メッセージを開くかどうか少し迷ったあと、私は恐る恐るそのポップアップをタップする。すると、あっという間に画面が切り替わり、目の前に葵とのトーク画面が表示された。
一番最新のトークに目を通す。
するとそこには『今、✕✕駅の近く。行ってくる』とだけ記されていた。
そのあとに、かわいい猫が電車に乗っているスタンプが送られてきて、葵のトークに豊かな感情をつける。
___ねぇ神様、つまりこれは、そういうことなのでしょうか。
それを見た私は、驚くほどの速さでいつの間にか家を飛び出していた。
✕✕駅は、私の家のすぐ近く。自転車で行けば、五分もかからないところにそれはある。