間違いだらけ
葵がどういう意図で私にこのメッセージを送ってきたのかはわからない。
けれど、私が伝えなきゃいけない気持ちも、謝るチャンスも、葵がメッセージを送ってきてくれた今しかないと私は必死にペダルを漕ぐ足を動かした。
途中で引っかかる赤信号が焦れったい。
こうしている間にも、葵は電車に乗ってしまっているかもしれないのに。その前に、葵が先輩に会う前に、早く会いたい。
✕✕駅に着くと、私は適当なところに自転車を止めて、すぐにホームへと駆け出した。ぐるりと辺りを見渡す。
すると案外早く、私はその姿を見つけることが出来た。改札口のすぐ近く、葵は機械に切符を通しているところだった。
「葵!」
そこから少し離れた先で、私は堪らずその名前を叫んでいた。
改札口を挟んだその向こうで、葵はこちらを振り返る。私の姿を見つけると、驚いた表情をした。
「葵、葵…!」
「咲々、どうしたんだよ。見送りか?」
冗談混じりに、葵は言った。
「葵、私ね、ごめんね。今日まで。学校で、ずっと無視しちゃって」
急いで来たせいで、息が上がって上手く声が出せない。途切れ途切れの言葉で、何とか葵に伝えたいことの一つ目を言う。
「大丈夫、気にしてないし。ってか、そんなことわざわざ言いに来たのか?」
「あ、あと」
「ん?」
ゆっくり深呼吸をして、呼吸を落ち着ける。
___次、次だ。
言いたいことのもう一つ、葵のことが好きだともう一度言わなきゃ。
「わ、私、葵のこと」
そのとき、私は言いかけてふと言葉を止めた。
___私は、一体何をしているんだろう?
今、葵は幸せになろうとしている。なのに、それを邪魔するような行為をしてもいいのだろうか。私がまた告白することで、葵は迷惑をするのではないか。
思わず、顔を下に背けてしまった。
「私…ね…」
これを伝えて葵にどうしてほしいのだろう。
葵を困らせて、告白を阻止したいのか。
これは本当に正しいことなの?
「咲々?」
葵が心配そうな声で私の名を呼んだ。
その声で、私は再び顔を上げる。葵の目を真っ直ぐに見つめて、やっと口を開いた。
「私、葵のこと応援してるから。頑張って」
私は笑った。涙が出そうになるのを懸命に堪えて、今葵の目の前で一番綺麗に映るように精一杯微笑んだ。
「おう、ありがと」
そう言うと葵は嬉しそうに笑い、私の前から姿を消した。