甘々王子に懐かれた!?
Ⅰ
今日も彼は甘いです
「お母さん、いってきまーす」
「あら、もうそんな時間だったのね。行ってらっしゃい、気をつけていくのよ」
午前七時五十五分を、時計の針が指せば私の出発時間。
ここから徒歩十分の距離にある、緑浜高校にはこの時間に出るのがピッタリだ。
「今日も暑そう」
玄関のドアの小さな窓から漏れる太陽の光を見て、私は憂鬱になった。
七月だから暑いのも同然なんだけど、もう少し太陽引っ込んでいてくれないかなあ。
ため息を吐きながら、ドアを開けた。
「ゆーうまちゃん!おはよう。今日も君は綺麗だね」
憂鬱度が増した。急増した。
ゆうま、とは私のことだ。
ゆうまと聞いただけでは、男らしく聞こえるが、名前の漢字を見れば女の子だとわかる。
赤坂 優茉(アカサカ ユウマ)、高校一年生、女子。
目の前にいる男子を見て、深い深いため息を吐いた。
「そんな深いため息はいたら、幸せ逃げるって言うでしょ?」
「失礼します」
私は、スッとその男子の隣を通り抜けて、早足で学校までの道を歩む。
後ろから、私を呼ぶ声が聞こえてくるが無視だ。
彼は、学校一かっこよくて、学校一人気者で、学校一優しくて、学校一甘い、奴なのだ。
そんな奴は、学校では王子様呼ばわりされている。
なぜ、そんな彼を見てため息を吐いたって?
奴、八田 慎助(ハッタ シンスケ)は、言い表すことの出来ないくらい鬱陶しいからだ。
最近の私の頭の中身は、どうやったらこの野郎から逃げられるか、しかない。
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