甘々王子に懐かれた!?
「わ、私、本当にそのこと全然知らなくて」
惚けるもなにも、知っていることがないんだ。
ターゲット、と言われたことと関係しているんだと思うのだけど、これは記憶というヒントが与えられただけで終わった。
だから、本当に何も知らないんだ。
「……そう」
窓の外を見ていた目は、私の目を数秒捉えたが、私が本当のことを言っていると分かったのか、視線を窓の外に戻した。
「……私に別れてって言いに来たのかしら」
そりゃもちろん別れてほしい。
だって、私は先輩の彼女になりたいし、先輩の愛を独占したいもん。
でも、セリカさんの気持ちも大事だから、それを消すようなことは私にはできない。
「いいえ。勿論別れてほしいのは山々ですけど……、セリカさんに命令できる権利は私にないですから」
「あなたたち、両思いなんでしょ?なら、言ってもいいじゃない」
「言えません。そんなこと、言いたくないです。私は、セリカさんに先輩が好きだと伝えて、正々堂々やりましょうって言いに来たんです」
正々堂々やりましょう、っておかしいかもしれないけれど、その他の言い回しが思いつかなくてそのまま言った。
「勝負なんてしないわよ。私は、はっくんとは別れるから。あなたたちとは今後一切会わないようにするから、安心してよ」
目に宿る光は、曇りなく、晴れ晴れとしていた。
セリカさんなら、やってやろうじゃないとか言いそうだったのに、まさか別れるって言葉を彼女から聞けるなんて。
思ってもいなかった事態に私はほんの少しの焦りを覚える。
「どういう……」
「両思いの人たちの間になんて入れるわけないじゃない」