甘々王子に懐かれた!?
「優茉ちゃんだけは、覚えていてくれたらなって思ってたんだけど、そう上手くはいかないよね。……俺、幼稚園の年中あたりの頃かなあ、こっちに越してきたんだ。ほんの数ヶ月だけ。おまけにその時の俺って、今みたいにはっちゃけた奴じゃなくてね」
困ったように眉を寄せて、ヒラヒラと困ったもんだよねと言うように手を泳がせた。
先輩が今と反対の子だったなんて、考えられない。
成長するって、凄い。
「だから、友達ももちろんできずにいたんだ。そりゃあ、最初は興味本位で来た奴もいるのかもしれないけど、俺の記憶にはまーったくなし。それくらいなんだよ。でもね、こんな俺に近づいてきてくれた子がいて、その子のことは今でも思い出せるくらいなんだ。……ね」
“優茉ちゃん”
いつもの声音のはずなのに、絶対有り得ないはずなのに。
だいぶと幼い先輩が、その舌足らずな口で、
はにかんで、私の名前を呼んだ気がした。
「優茉ちゃんだよ。……俺と、唯一笑って話しかけてくれた、大事な人」
「わ……たしが、先輩と……」
「うん。一人で公園にいた日に、『一緒に遊ぼう』って声かけてくれたんだよ。……あの時、俺、すーごい嬉しくて」
──────『きのうも、ひとりだったよね。いっしょにあそぼう』
──────『……ぼ、ぼくにいってるの?』
──────『ここにはきみしかいないよ?』
「思わず、逃げちゃったんだよね」
あの時は、本当にごめんね、と先輩は今の私に謝った。
覚えていないものだから、今謝られても困るという本音はグッと喉の奥に押し込めた。