甘々王子に懐かれた!?
「そんな険しい顔しないで、優茉ちゃん。分かった、分かったから。先行ってるね」
そして歩き出したかと思えばこちらに振り向いて、ちゃんと来てね、と寂しそうに告げた。
歩き出した先輩の背中は、大きくて、逞しくて、だけど、どこか寂しそうで小さく見えた。
先輩、どうしたんですか。
先輩らしくないですよ。
いつものニマニマと呑気に笑っている先輩の方が、好きです。
……嫌いですけど、嫌いですけど!
先輩の姿が薄くなり、消えたところで私は歩き始めた。
正門を出ると、左と真っ直ぐと右と、道が三つに分かれている。
私の家に行くのは、左の道。曲がったあたりで待っているのかな。
少し小走りで向かうと、曲がった数十メートル先に寂しそうに待つ先輩がいた。
私が「先輩」と声をかけると、嬉しそうにこっちを向いた。
先輩。どうして、私なんですか?
どうして、私が先輩のターゲットになったんですか?
「やった、優茉ちゃんと初めて帰るね」
「もうこれで最初で最後ですね」
「えっ、これからも帰るよね!?最後だなんて言わないで!」
泣き真似をする先輩は、もういつもの先輩に戻っていた。
いつもいつも甘い先輩。
きっとその甘さの下には、苦しみ(にがさ)もあるんですよね。
「先輩、私、どうして先輩のターゲットになったんですか?」
「んー、なんでだと思う?」
分からないから聞いてるのに!
まさか、何の理由もなしに私のところに来たというの?
「……理由なし、とか?」
「違うよ!ちゃんと理由はあるよ。でも、それは俺から言いたくないの」
「教えてくださいよ。せめて、ヒントでも」
俺から言いたくないって、じゃあ、誰が教えてくれるんだ。
相変わらず可笑しな先輩だ。
「思い出して、優茉ちゃん。君の記憶がヒント」
私の記憶……?私の記憶になにかあるの?
いつの記憶?ちっちゃい頃?最近?いつ!?
「いつの記憶ですか……。記憶って言ったって、いっぱいありすぎて分からないんですけど」
「それ以上は言えないな。俺が悲しくなっちゃうよ」
はぁ……?俺が悲しくなる?喋ったら?
ますます分からない。