甘々王子に懐かれた!?
「いたいた!優茉ちゃん、今日、俺部活オフだか――」
先輩が言い終わるまで待たずに、私は教室に入ってきた先輩の口を頑張って抑えて、階段のところまで向かった。
「何しに来たんですか!」
「優茉ちゃんが俺の口を塞いだ……っ」
「それはごめんなさい。で、私の質問に答えてください!」
いやいや、嬉しいことなんだよ!と先輩はクルクルと回っている。
さっさと私の質問に答えてくれないかなぁ。
もう少ししたら、この階段、たくさん人通るし。
「だからね。俺、今日、部活オフだから一緒に帰ろーって誘いに来たんだ」
二パァッと嬉しそうに話す先輩。
こういうところにみんな惹かれるんだろうなぁ。
だって、全然嘘のない綺麗な笑顔だから。
「帰りません。というか、帰れないの分かりません?」
「帰れないって?なにか、今日残らなくちゃいけないの?それなら俺、手伝うよ?」
この馬鹿先輩……!
自分でもモテてるって自覚あるでしょ!?
そんなモテてる先輩の隣を、呑気に歩いて帰れると思いますか?
私、次の日死んじゃいますよ?
さっきのでもかなりのダメージをくらったというのに、一緒に帰るなんてしたら、もう学校来れない……。
「先輩が人気だからですよ。人気者のお隣は辛いんです。みんなの視線が痛いんですよ」
「人気者なのは、そりゃあ知ってるけど。それは関係ないでしょ?俺は、優茉ちゃんと帰りたいから」
帰りたいから帰りましょう、じゃいけないんですよ。
「人気者なのは、関係大ありです。先輩は、皆のものなんです。だから、私が先輩と歩くと、みんなの先輩に何してくれたんだお前!ってなるんですよ、分かります?」
抜けがけは禁止ですからね、と私は言った。
別に私は先輩のこと好きじゃないし、ファンじゃない。
でも、先輩のことが好きで密かにファンクラブまで作って仲間に入っていった人達がいる限り、だれも先輩を独り占めできない状態だ。
私は独り占めしたいわけじゃないけど。
周りから見たら、私が独り占めしたみたいになるわけだし。