雨よりも静かな音の中『短編』
あれから……俺はどうしたのか……覚えていない。




いや、覚えている。



彼女を押し倒し…無理矢理抱いたのだ。


彼女はずっと、無表情だったが……俺が一度果てた後、

今度は彼女から迫り……今まで一番激しく…俺を抱いてくれた。

俺は、そんな彼女を初めて知った。





その後…彼女と、会ってはいない。


その日…いきなり、降りだした激しい雨にうたれながら、俺はとぼとぼと家に帰った。

途中、歩美と会い…びしょ濡れの俺に驚き、傘に入れてくれた。

小さな傘であり、風も強かったこともあり、部活帰りの歩美のブラウスが、雨で透けているのに、気付いた。

(男って…ふられた直後でも…目がいくんだな…)

自分に笑ってしまった。






レコードが終わった。

マスターは、違うCDをかけた。

店内に、R&Bが流れると、俺は店を出た。


「うん?」

すると、まだ雨が降っていた。

傘を持っていなかったが、普通に歩きだそうとする俺の前に、誰かが立った。

「はい」

傘を差し出す歩美に、俺は驚きの顔を向けた。

「また…この店だと思って…」

歩美から、傘を受け取り、歩きだす俺に、

「そんなに好きなら、家で聞けばいいのに。CD持ってるでしょ」

歩美の質問に、僕は笑い、

「音が違う…レコードと。それに、あの音は、薄暗いところが…似合っている」

「ふ〜ん」

それ以上、歩美はきかない。


俺は、普通の幸せを…手に入れた。

だけど、この季節……。

雨が降る日は…俺の心が、疼いた。



彼女が住んでいたアパートは、数年後…大学生になってから、偶然通った。

すると、アパートは打ち壊され、飲食ビルが建てられていた。

その一階のバーで、偶然流れていたジェリー・マリガン。



俺は、あの部屋に貼ってあった…幸せそうな写真を思い出した。

そして、悔しさでいっぱいになった。

(俺はなぜ………彼女と一緒にいれなかったんだ!)

雨は、あの時の彼女の涙。


未だに、心濡らす涙。

End。


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