恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】

オフィスの雰囲気は、とても良い。
失敗もすることなく……といっても、まだ失敗するような仕事もしてないのが現状だけど、まずは初日を無事に終えて安心して帰路につく。



「んあああ、疲れたっ!」


一人暮らしのアパートに帰り、ぼふんとクッションの上にうつ伏せで倒れ込んだ。
この春から契約したばかりの、比較的小奇麗なアパート二階の角が、私の初のお城だ。


例えいい人ばかりでも、やはり初めての場所は緊張するし覚えないといけない顔がいっぱいで、脳が疲れた。


寝っ転がったまま、のろのろと仕事のメモを取り出して、ぱらぱら捲る。
東屋さんの特徴をメモしたページで、指が止まった。


基本、明日からもしばらくは東屋さんに教わることになるようだ。
書類作成は、多分西原さん。


『西原さんの仕事は本当に丁寧で正確だし、何よりちゃんと見る側の目線で細かいところまで配慮がすごいから。そういうとこ、勉強になると思う』


定時間際。
西原さんと一緒に作った資料を確認してもらうと、彼は満足げに頷きそう言った。


ダシに使われたような気がしていたのはやっぱり気のせいだったのかな?
確かに彼の言う通り、西原さんの仕事は丁寧で美しかったし、本当に勉強になると考えて彼女に教わるように段どってくれたのかもしれない。


一通り、今日取ったメモに目を通そうと起き上がった時だった。
携帯が短い着信音で、メッセージの受信を知らせた。


『初出勤、お疲れ。今から行っていい?』

「京介くんだ。今日は早番なのかな?」


付き合い始めて、まだ三ヵ月。
いや、三ヵ月と言えば、もう十分付き合ったうちに入るのだろうか?


彼は、大学時代からアルバイトをしていたカフェでそのまま就職した。
それまで友達としては付き合ってきたから、人となりはよくわかってるつもりだし一緒にいれば楽しい人だ。


このまま互いに社会に出て連絡が少なくなり、やがて疎遠になるのは寂しい。
それなら、まずは付き合ってみないか、と告白された時にそう提案されたのだ。


……疲れてる、けど。
会える時に会わないと、いけない気がする。


サービス業だから、これから私とは少し生活時間や休みが合わないことが多くなるかもしれない。
そう思えば、断るのは申し訳ない気がした。


少し躊躇ったが、「いいよ」と短く返事をした。


だが。
この時間から、来るということは。


その先のことを考えると、ちょっとそわそわする。
< 10 / 310 >

この作品をシェア

pagetop