恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「一花、チョコがついてる」
「え?」
ひょい、とせっかく逸らしていた視界の中に入り込むようにして至近距離まで近づいてくる。
親指で私の唇の端を拭い、その指を、唇に含んで、舐め取った。
「甘っ」
舌を少しだけ覗かせて笑う。
その微笑の方こそ、とんでもなく甘く見えて、私の顔はいよいよ本格的に発火した。
「あ、東屋さんっ?」
「何?」
それはまるで恋愛映画の恋人のように、優しく甘い表情で顔を近づけたままの語らい。
……のように、絶対周囲からは見えてるわけで。
「わざとやってますよね?!」
「うん。あ、あいつら逃げてった。なんだよつまんねーな」
さっき私達を冷やかしたのはカップルだったらしい。
その仕返しか単に悪乗りしただけか、どちらにしろ心底楽しかったようで。
ケロッとしていつもの距離に戻った彼は、仕事用じゃない、ちょっと意地の悪い顔で笑う。
「東屋さんって、負けず嫌い」
「うん? 当然だろ」
負けるの好きなヤツなんていんのか、と得意げな表情は少し子供っぽいな、なんて。
さっきみたいに、マガイモノの甘い表情もきゅんってして好きだけど。
私は今の表情を見られる方が、好きだし嬉しい。
自然なままのこの人を、もっともっと、知りたいって思ってしまう。