恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】


結局農園を出た後、イチゴを食べすぎて食事は入らないということで、敢え無く私のささやかな計算は失敗に終わった。


ならばせめて、車中でたくさん話をしようと思ったのだけど。
カーナビに私の住所をセットして、暫くの間は良かったのだけど、会話が途切れて車に揺られているうちに眠ってしまっていた。


東屋さんとデートもどきをしたせいか、いつになくストレートに優しくて、それでいてやっぱり意地悪で、だけど仕事モードじゃない彼に接することが出来たせいか。


とても幸せな気持ちの、夢を見た。


するすると、耳の少し上辺りの髪をゆっくりと指が梳いていく。
とても、優しい指先で、気持ちがいい。


肌には触れない、髪の上をすべるだけの、だけど確かに伝わる感触。


もっと、と強請りたくなるくらいなのに、もどかしいくらいの優しさに、だらりと膝に落ちた手の指がぴくんと動く。


ちゃり、とチャームの音がした。


あ、東屋さんに買ってもらったチャームだ。
膝の上で弄びながら、寝てしまっていたんだっけ。


そう気が付いて、ふ、と口元が緩んだ。
だって本当に、すごく、嬉しかった。


時間が、一分一秒がすごく大事で、だから最後までもっとたくさん話をしようと思って。


あれ?
なのに私はなんで、寝てるんだ。



「ふあっ?!」

「あ。起きた?」


慌てて目を開けて隣を見ると、東屋さんはまだ運転中。
だけど、窓の外の景色は、私の見慣れたものになっていて。


「もうすぐ着くからそろそろ起こそうかと思ってた」

「起こしてくださいよもっと早く!」


うあああん、時間無駄にした!

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